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Endo Tech Blog

Techブログと言う名のただのブログです。

【読書】 就職する明日はない

読書

 

 

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 "就職する明日はない  乙一"

 

かつてシドニー・シェルダンと言う作家がブームだった。1990年代のことだ。書店には彼の本が大量に平積みにされていたし、売れている本のランキングはいつも上位だった。あんなに売れている本を十代の僕はみた事がなかった。

 

(略)

「人生で一番面白かった本は、シドニィ・ジョルダンの小説だな」

 ある人が言った。僕は十九歳だった。その当時、九州の片田舎でくらしていたのだが、自宅からバスで一時間半でかけて工業高等学校専門学校(以下、高専)に通っていた。すでの小説を描いて新人賞を貰い本を出版していたが、とぼしい印税収入で生活するのむずかしいそうだったので将来は就職しようと考えていた。高専の5年生になると工場研修というものがある。高専とつながりのある様々な工場に一人か二人ずつ配属されて2習慣ほど働くのだ。僕はとある金属精錬の工場へと配属された。最悪の二週間の始まりだ。

(略 )

 そういえば、同じ工場に配属された同学年の男の子がいたのが彼はコミュ力の高い人物で、工場でも人気者だった。休憩時間になると色んな人に囲まれてたのしそうに世間話をしていた。僕はといえば、昼休みになると近所の橋の下で川面を見つめながら時間をすぎるのを待っていたけどね。

 研修最期の日、夜に打ち上げが催された。工場に勤める二十人などのおじさんたちと居酒屋に入り、工場研修おつかれさまとねぎらわれた。あるおじさんが「卒業にしたらうちに就職しな」と言ってくれた。指導教官が「あいつはいらんでしょ」と言って場が一瞬凍った。僕はひたすら我慢した。その場を乗り切れば、研修はおわりだったから。ほどなくして指導官が本の話を始めた。

 「お前ろくに本をよんでらんのやろ」

 なぜか僕はそんな事をいわれた。読書をするタイプに見えなかったかもしれない。言い返すと面倒になりそうだから曖昧にわらっておいた。彼は次のように続けた。

 「人生で一番面白かった本は、シドニィ・ジョルダンの小説だな」

それなら僕も読んでいた。何冊も。

「僕も好きです。シドニィ・ジョルダン

 同意すると、彼は意外そうな顔をした。僕がよんでいるなんて想像もしなかったようだ。それとも二週間の工場研修で、僕がそんな明瞭な声を発するのを聞いた事がなかったせいだろうか。今も記憶している唯一の対話だった。上手く言えないど、彼に一矢報いたような気がした。最期の最期に、僕はようやく自分にも人格があるのだという事を証明できたのだ。研修を終えた僕は、もう2度とその工場のあった地域には足を踏み入れてまいと誓った。そして就職をするまいと。たとえ、印税収入がとぼしかったとしても、節約して、小説執筆だけで生きていくていくことにしよう。就職してノイローゼになるよりは、その方がマシだ。社会、怖い!就職は、しない!専業作家、乙一の誕生した瞬間であった。

 

....それにしてもシドニィ・ジョルダンの本をベストにあげるなんて、あいつ、もしかしてそんなに本を読んでなかったんじゃないか、などと思ったりもする。シドニィ・ジョルダン作品を最期によんでずいぶん経つ。時代が下した彼の作品への評価は僕にはわからないけど。けれど彼の小説をむざぼり呼んだ時間、至福だった事はまちがない。シドニィ・ジョルダン作品が好きだ。すこし気恥ずかしくて、大きな声で言えないけれど。ラッセンのイルカの絵の印象が似ている。あの時代、熱狂的に売れて、今はもうふりかえられなくなって、面はゆい気持ちになる。そういう作家がいた事を、記憶にとどめてほしいのだ。

(終)

 

全文

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大学生協にいくと、読書コーナや端っことかに「読書のいずみ izumi」っという、フリーペーパが置いてある。僕の大学だと会計後の袋詰め場所の左端にポツンと置いてあり、なんとも地味な扱いを受けている。izumiの表紙を見た事ある人ならわかるかもしれないが、表紙絵がちょっと不安にさせられる。

ちなみに、今月号の表紙はこれだ。

 

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めっちゃ怖い

このちょと不安になる絵をぼくは勝手に「izumi 絵」と読んでいる。

ちなみに未だにこの白色のキャラクターが人間なのか犬なのか、果ては宇宙人なのかわかっていない。

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他の号の表紙をみると、2本脚が生えており生物学的に人間なんだろうと理解できるが....「なぜこのキャラなんだ..?」っという疑問が頭の中にのこりつつ、気づいたら大学1年の頃からizumiをさりげなく手に取っている。

 

izumiでは冒頭部分で専業作家をお招きして「あの頃の本たち」と言うコーナで、作家が好きな本の紹介や学生時代の思いで話、なぜ専業作家の道を選んだのか?などと言った話をテーマにして短編小説風に紹介している。

いわば、自伝である。今月のizumiはその中でも特によかったので、それを少し紹介してみた。

 

このizumiっというフリーペーパだが、内容のコンテンツは読書好きならば、かなりいい内容となっている。以前は「何者」の著者である朝井リョウさんと学生が対談したり、また教授が学生時代にどんな本を読んでいたのかを学生達と対談形式で紹介するなど等、地味そうで結構これが面白い。何の回か忘れてしまったが、東大のある教授の話で、学生時代は筋肉トレーニングにはまって、ひたすらプロテインと筋肉に関する本を漁っていたなど、どうでもいいそうでこれが結構面白いのであるどっちだよ。

 

どっちなのかはさておいて、気になったら試しにizumiのHPがあるので、そちらで確認するのも手なので、是非ご覧下さい。

 

www.univcoop.or.jp

 

izumiを推しているが、残念な事に僕はいまだ自分の大学でizumiを読んでいる学生を見た事がない。これは大学の関係のせいでもあるけど、理系で普段技術書や数字ばっかり見ている身分にとっては、izumiはまさに、足りない活字を補給できる重要な泉なのである。

 

まぁそんな訳で大学生で読書好きには是非izumiを取って欲しいし、個人的にizumiは社会人になっても購読したいなぁと思っている。

 

おわり

 

 

死にぞこないの青 (幻冬舎文庫)

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銃とチョコレート (講談社文庫)

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